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新潟地方裁判所 昭和42年(ワ)627号 判決

原告 柾木正弘

右訴訟代理人弁護士 萩原由太郎

同 別府祐六

被告 新潟運輸建設株式会社

右代表者代表取締役 佐藤斉

被告 坂爪友市

右被告両名訴訟代理人弁護士 神田洋司

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは連帯して原告に対し金五〇〇万円およびこれに対する昭和四〇年八月一日より支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行宣言の申立

第二、被告らの答弁の趣旨は主文同旨。

第三、請求原因

一、事故発生

昭和四〇年七月三〇日午後八時五分頃、新潟市山二ツ一一三六番地先路上において、新潟市内へ向けて進行中の被告坂爪友市の運転する大型貨物自動車新一い―六七八一号(以下被告車という。)が、亀田町方向に進行中の原告の運転する普通貨物自動車新四は―八一九一号(以下原告車という。)に接触し、そのため原告は負傷した。

二、被告新潟運輸建設株式会社の責任

被告会社は被告車を所有してこれを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により被告車の運行によって生じた本件事故に基づく後記損害を賠償する義務がある。

三、被告坂爪友市の責任

被告坂爪は被告車を運転して新潟市内方面に向けて進行し本件事故現場にさしかかったのであるが、そのあたりは特に道路が狭小でありかつ道路が前後ともに湾曲している状況にあるから、側方後方を十分注意し何時でも停止可能の徐行運転をなすべき注意義務があるのにこれを怠り、車道中央線を越えて右方を通り、亀田方面に向けて進行していた原告車を発見してあわてて左方に寄ったが、そのまま両車輛がすれ違おうとした時、被告車の後方が原告車の右側サイドミラーを破壊しそのまま運転者側の右窓を破壊し原告右腕を複雑骨折に至らしめたものである。

右は、被告車の車体が高く原告車の車体が低く、そのためにすれ違う際被告車の後部にある出っ張り部分が接触して原告車の右前方のサイドミラーを破壊しかつ前記の右窓および運転者の右腕に接触したためである。

従って被告坂爪は本件事故に基づく後記損害を賠償する義務がある。

四、損害

(一)  医療費

原告は本件事故により右前腕開放性骨折兼挫創右上腕骨折の傷害を受け、治療に拘わらず右上肢を肘関節から先の部分を失った。その費用は入院料、手術料、注射料、その他を含めて合計金一〇万円である。

(二)  得べかりし利益の喪失

原告は被害を受けた当時株式会社三共熔接に勤めており一日当り金一、四〇〇円の給料を得ていた。

原告は被害当時満二〇才六月であったから、平均余命は五〇年(昭和三九年簡易生命表による)で、勤労可能年数は四三年であり、その係数は二二・六一一(就労可能年数とホフマン式計算による係数表による)である。

しかして、生活費は本人が片手を失ったとは言え簡易な職業につくことが可能であるからそれによって充分賄えるものである。

したがって、原告が正常な関係において働くものとすれば

42,000×12=504,000(円)

504,000×22.611=11,395,944(円)

の収入を得たこととなるから、原告は同額の損害を受けたというべきである。

(三)  慰藉料

原告は前記傷害により右上肢をひじ関節から先の部分を失い洋々たる前途を失し肉体的精神的苦痛に陥らされた。それによって受けた精神的損害は金一〇〇万円である。

(四)  弁護士費用

本件訴訟提起のため原告およびその父母が弁護士に要した費用は金五〇万円である。

五、よって、原告は被告らに対し前記四項の(一)ないし(四)の合計金一、二九九万五、九四四円のうち金五〇〇万円およびこれに対する昭和四〇年八月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

第四、被告らの答弁

一、請求原因一項中原告車が被告車に接触したとの点を除くその余の事実は認める。

同二項のうち被告会社が運行供用者であることは認めるもその余の事実は争う。

同三項の被告坂爪の帰責事由は争う。事故原因は後述のとおりである。

同四項の損害額は知らない。

二、被告らの無過失、原告の過失の主張

(一)  本件事故現場は巾員八メートル位の道路幅でゆるいカーブをなしている地点であり、右場所を坂爪運転の被告車はできるだけ進行方向左側によって比較的緩やかなスピードで進行していたところ、原告は反対方向から右手を窓の外に出す片手運転でしかもセンターラインを越え相当程度のスピードで進行し、被告車に衝突して来すれちがいざま被告車の後部で原告の右腕を切断されたもので、本件事故は原告の自殺的行為によって惹起されたものである。しかも当時原告は酒に酔って運転し、かつ免許停止処分中の無免許運転であった。

(二)  被告坂爪に過失なく、本件事故は専ら原告の窓から手を出す片手運転で相当のスピードを出しているうえ、センターラインを越えかつ飲酒無免許運転によるもので、しかも被告車輛に構造上の不備もなかったから、被告らには本件事故による損害の責はない。

三、過失相殺の主張

仮に被告らに過失ありとしても答弁二項の事情から相当程度過失相殺さるべきである。

本件事故発生後被告らにはなんらの過失がないのであるが、被告は原告に同情して自動車損害賠償責任保険から保険金が受領できるよう相当に努力した。

その結果右自賠の認定額が治療関係費金七万四、四〇〇円、治療期間の補償費金八七万円合計一〇一万九、七二九円となった。

しかし、右自動車損害賠償責任保険ですら本件事故に過失相殺を適用し、あまり類をみない同法の最高の相殺率二〇%を適用され、その結果金八一万五、七八三円を原告が受領した。

したがって、仮に被告らに過失ありとしても、過失相殺が適用される結果前記保険金の受領で十分補われた。

第五、証拠関係≪省略≫

理由

(事故の発生)

一、昭和四〇年七月三〇日午後八時五分頃、新潟市山二ツ一、一三六番地先路上において、新潟市内へ向けて進行中の被告坂爪友市運転の被告車とそれと対向してきた原告運転の原告車とが接触し、その際原告が受傷したことは当事者間に争がない。

二、≪証拠省略≫を綜合すると、事故現場付近の道路状況、接触地点、事故の態様は左のとおりであると認められる。

(1)  事故現場付近の道路状況

巾員約八メートル、アスファルト舗装部分六メートルでセンターラインなし、両端に約一メートル宛未舗装の路肩部分がある。新潟市から亀田町方面に向う場合、巾七メートル長さ四六メートルのコンクリート造りの小山橋まで上り勾配となり、橋からゆるく左に曲りながら下り勾配となっているが、周囲は田で人家なく見通し良好、但し、道路には夜間照明の設備がなかった。

(2)  接触地点

小山橋から亀田町方向へ曲りきり直線に入った下り勾配途中で、山二ツ線六八番の電柱から小山橋寄りに直線距離二二・三メートル舗装部分の中央付近である。

接触地点について当事者双方は互に自車進路内であるとしているが、事故発生直後の午後八時二〇分から実況見分を行なった警察官中島勝利、佐々木輝弥の両証言とその見分調書である乙第一号証によれば、事故現場道路上に原告車前方右側の三角窓のガラスの破片が散乱しており、その散乱状況が原告車の進行方向に向って舗装部分左端から三・二メートルの地点を中心に楕円型に散っていたということに徴し、多少の誤差を考慮しても接触地点を道路中央部分とみるのが正しく、原告車の進路内とみることは到底できない。

(3)  事故の態様

原告はスピード違反で処罰され事故当日は運転停止処分中であったが、勤務先の従業員を送るために原告車を運転して事故現場に差しかかったのであるが、右側前方の三角窓を外側に全開にし、右ドアの窓を全部おろして右腕を乗せ体をドアにもたれるような姿勢をとっていたため、右肘が窓から車外に突き出ていた。

原告はかかる姿勢をとったまま対向してきた被告車とすれ違ったのであるが、その際被告車の荷台最後部分の下側のわずかの突起箇所と原告車の全開になっていた三角窓のガラスだけがかすめるようにして接触し(原告車のボデイには擦過痕が全くない)、次いで突き出していた右肘が触れたのである。

(被告らの責任の有無)

三、被告会社が当時被告車を所有してこれを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争がないところ、被告会社は本件には自賠法三条但書に該当する免責事由が存在すると主張する。

前項挙示の各証拠と認定事実によれば、原告が受傷したことにつき、被告車に構造上の欠陥又は機能の障害がなく、それを運転した被告坂爪に運行上の過失があったことも認められないこと、殊に道路巾と被告車が大型貨物車である点及び接触地点とを考え合わせると被告車が殊更に原告車の進路に入ったとみれないこと、それに反し、原告が受傷したのは右肘を車外に出したまま被告車とすれ違った原告の安全運転義務違反ある過失によって惹起したものと認められる。

このことは、原告が右肘を車外に出していなかったならば絶対に受傷することはありえなかったことに思いをいたせば明らかであろう。

四、したがって、被告会社の前記免責の主張は理由があり、被告坂爪に対する関係でも前項で述べたのと同一の理由で過失を認めえない。

(結び)

五、してみれば、その余の事実を判断するまでもなく原告の本訴請求は全部理由がないからこれを棄却し、訴訟費用は敗訴の原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 正木宏)

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